「競争は負け犬がするものだ」
今の日本で、この言葉を聞いたことのある人がどれくらいいるでしょうか。
この言葉を発したのは、シリコンバレーのベンチャー企業を主なターゲットとする投資家、ピーター・ティール。
シリコンバレーで圧倒的なネットワークを構築し、ワシントンではホワイトハウスを裏で牛耳る。謎が多く、ビジネスの表舞台には姿を現さない。まさに、新世界秩序の陰の支配者という言葉がふさわしい男。
今回は、「ペイパル」や「パランティア」を創業したティールに迫った伝記、『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』をレビューします。
ピーター・ティールは、謎に包まれた投資家である。
"ペイパル・マフィア"とイーロン・マスクとの関係
ピーター・ティールは、電子決済サービスのペイパルの創業者一人として、最も知られています。ペイパルの創業者や社員たちが、のちにYouTubeやUber、AirbnbなどのIT企業を起業したことから、彼らは「ペイパル・マフィア」と呼ばれています。ピーター・ティールは、その「ペイパル・マフィア」の中心人物として、シリコンバレーの実力者を束ねる「ボス」として、君臨しています。イーロン・マスクとはペイパル時代に出会い、確執と協力関係を通してつながりを深めていきます。

謎のビッグデータ起業「パランティア」を創業
ティールは、様々な先進的な事業を手掛けています。その多くはいまだ日の目を浴びることなく、その真意はつかみきれないのが実情です。彼の所有する事業の代表格ともいえるのがビッグデータ分析を手掛ける企業「パランティア」。その顧客には米軍などの政府機関が名を連ねるとされ、「ビッグデータをテロ対策に生かす」というのが事業内容だとされます。「パランティア」は公開企業ではないため謎も多く、不気味な感さえ抱かせる未来的な企業なのです。「パランティア」を保有するティールは、確実に、ビッグデータを有効活用した先の未来を見据えています。
しかし出身は哲学科
数々のIT企業を創業し、シリコンバレーの「ドン」として君臨するティール。しかし、その出身は意外にも「哲学科」なのです。スタンフォード大学出身の彼は、大学卒業後ロースクールで法律を学び、法律家としてのキャリアをスタートしています。ティールはのちに、哲学や法律を学んだ事がのちに彼の人生に大きな影響を与えたことを認めています。
信条は、「競争は負け犬がするもの」
哲学に造詣の深いティールの価値観は、ビジネス界でも際立っています。ティールにとって競争とは、「負け犬がするもの」。「独占」こそが利益の源泉であり、「競争」には全く生産性がないと切り捨てています。この哲学の根底には、「エリート街道」を地でいったティールだからこその、達観した気づきがあるのです。例えばティールは、皆が同じ学校を目指し、皆が同じ職業を目指して競争する現状を嘆いています。「誰もが競争に夢中で、モノの本質に気付いていない。もし、端の方にショートカットできるドアがあったら、誰がそれを使うだろうか?」独自の視点を維持することを重視するティールらしい考え方です。
トランプ政権誕生を予言
独自の考えを貫くティールは、どこまでも大衆の考え方を否定します。彼は2016年の米国大統領選で、大方の予想を無視してドナルド・トランプの当選を予想します。トランプ氏に多額の資金を影響する賭けに出るのです。その結果は、私たちが知る通りです。ティールは見事にワシントンの要職を射止め、その影響力を拡大させます。「逆張り」の思考法で次々に成功を収めるティールにとっては想定内のシナリオだったのかもしれません。
「ピーター・ティール 世界を手にした『反逆の投資家』の野望」のまとめ
ティールは、革命的な意思決定を、いとも簡単にやってのける驚異的な投資家です。シリコンバレーでは絶対的な権力を誇っているとされ、2016年の大統領選ではついに政治的な影響力も手中に収めました。現在の米国の経済を、陰で操っているキープレーヤーといっても過言ではありません。同じく、次世代の有力実業家とされるイーロン・マスクが表の「ペイパル・マフィア」であるとすれば、ティールは影の「ペイパル・マフィア」でしょう。次世代の経済を変える可能性のあるこの男を、今のうちに知っておいて損はないはずです。本書では、ティール自身のみならず彼の関わっている事業、そして産業にも焦点が当てられています。新しい世界経済を予想するうえで、大きなヒントになるかもしれません。
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